STORY

 

〈石への思い〉

特別な、わたしだけの宝物。
自分だけのお守り。
わたしにとって純粋にそう思えるのが、「石」だったんだと思います。
石のお仕事を始める前はグラフィックのデザインをしていたのですが、お給料を握りしめてはジュエリーショップに通い、アンティークやデザイナージュエリーの一点ものを好んで身につけるのが楽しみでした。
それだけで飽き足らず、彫金教室に通ってみたり、銀座の高級ジュエリー店に自分で描いたデザイン画を持ち込んでオーダーしてみたり…そんなふうに自然と、気がついたら深く追い求めているのがジュエリーの世界でした。
ただ美しければ良いわけではなく、「石」という素材へのこだわりが生まれたのも、自分だけの宝物を追い求める中では、ごく自然な流れでした。
ジュエリー以外にも収集癖に近い性質は持っていたのですが、ある時、服や靴などの身につけるもの、大事に思っていたコレクションなどを大量に片付けたことがありました。
その時なぜか「石」だけは、手放すという選択肢がまったく浮かばなかった。
わたしにとって、どれだけ自分が変わっても価値が変わらないもの、それが「石」なのだと、わたしの中で強く印象に刻まれた出来事でした。
この感覚はもちろん個人的なもので…誰にとってもそうであるとは言えないのですが、自分自身の価値観の変化を「石」がものともしなかったのは、おそらく、わたしたち人間が過ごしている時間とは遥かにスケールの違う「時間」を超える魅力を「石」が持っているからではないかと思います。

 
 

〈創り手として〉

「“巻かれちゃってる”感が全然ない」
「石が自由にしている」
…不思議とよく言っていただくことの多いご感想です。
エネルギーに対する感度が高い方にそう言っていただくのはとても嬉しいです。
わたし自身の自覚は職人とか作家的感覚で制作をしている部分が大きいのですが…
それでも石という素材に対してはひとつの人格に対するような敬意があり、素材のままの方がよかった、と感じられるような仕事であってはいけないと、その性質や魅力をを理解していちばん美しい形に仕上げるのでなければ、わたしが制作する意味はない、という気持ちが根底のところにあったりします。
自由にのびのびと、本来の美しさを解放して輝いている姿が見たい、それは石に対する想いであり、身につけてくださるお客様への想いでもあります。
そしてわたし自身も…自分自身がそれを体現できていなければ作品の説得力もないと思っています。